アメリカ臨床研修入門


ABA Oral Board Examination
Hisashi Tomie, M.D. (Newsletter No.5)

 1.ABA Oral Board Exam 2. 私の受験体験 



1. ABA Oral Board Exam

American Board of AnesthesioIogy (ABA)では、4年間のレジデント
(インターンを含む)を終了し、筆記試験に合緒し、州の医師免許を
取得した者に対して、毎年ー回(4月か9月)ロ頭試問を行います。
もしこれに3回統けて失敗しますと、もうー度筆記試験を受け直さ
なければならなりません。また、2000年までに合格しませんと、
以後10年毎に再受検しなければなりません(更新試験)。
ですから、現在(1997)、CAー3のレジデントは―回でパスしないと、
再受検というルールにあてはまってしまいます。(再受検がどういう
形式になるのかはまだ未定です)。
 
ロ頭試問の結果の与える影響は決して過小評価できないものがあります。
職探しに及ぼす影響から、離婚などの家庭破壊、果ては自殺に至るまで
いろいろな話を耳にします。大変心の重荷になるから、ロ頭試問受験者
のためのセミチーやプライべートレッスンなどが立派な商売として成り
立っているのでしょう。私自信も、もし失敗した場合、アメリカ留学して
無駄ではなかったのだろうかと、疑問を投げかけざるを得なくなる程大きな
影響を感じました。ある意味では当然でしょう。アメリカでレジデント、
フェローをしましたが、専門医の資格はとっていないとなリますと、
ただ単に経験を積んだだけにとどまります。しかL、専門医として認定
されたとなりますと、アメリカの専門医として登録され業績はー生に残る
宝物となります。周囲に与える影警も少なからずあります。
 
Intraining Examではハイ・スコアを取っていて、知識は十分にあるから、
口頭試問も問題ないだろうと高をくくっていると大変な目に遭います。
口頭試験は筆記試験と異なって、ただ知識を試されるだけではありません。
リスニング、判断力、応用力そして自分の意見を理路整然と明快に英語
で表現するカも試されるのです。ですから、知議も経験豊富のべテランの
麻酔医がしばしば合格できない、という話もまんざらではありません。
とくに、外国人にとっては難しくなります。
ニュージャージ―のある地域に住んでいる多くのアジア系麻酔医は一人と
して口頭試問に合終していないそうです。その一人の先生とお話ししましたが、
麻酔の経験は17年で、10年前に筆記試験にはー発で合格しましたが、口頭
試問には一度も合格せぜ、失敗したため、もう一度筆記試験から受け直して
今回、口頭試問に再チャレンジだそうです。
全体的に口頭試験の合格率は80%と言われております。外国の医学校
出身者(FMGs)に限った場合の数宇は発表されておりませんが、おそらく、
英語を得意としないアジア出身者に限った場合は、50%位ではないかと
想像します。
日本の指導医レベル以上の先生が準備せずにいきなり受験したと仮定
しますと、合格する人はおそらく殆どいないのではないかと思います。
不合格者の中には外国人ばかりでなく、もちろんコミュニケーションには
なんの不自由もないアメリカ人もいます。
現在のロ頭試問の在り方に対しまして、いろいろな意見がありますが、
日本の指導医口頭試験に比べますと、アメリカの試験はより臨床の場面に
即した、実践的でコンサルタントとしての麻酔医の腕を試す試験であると
言う点に価値があると思います。≡患者が手術を予定され、術前評価から
麻酔の導入、モニター、維持、術後管理までどうアプローチするか、
それも小児麻酔、産科麻酔、心臓麻酔などあらゆる分野から症例が呈示され、
さまざまな術前・術中・術後合併症が矢つぎ早やに質間が飛びます。
クリティカルケアーをする麻酔医が危機管理の訓練ができている事は
望まれることで、その頭脳をテストされるのです。断片的な知識を問う、
日本のロ頭試問とは性格が全く異なります。また、全く面識のない試験官
(ときには、有名な教授)からのプレッシャーに耐えなければならないのです
から、簡単には片付けられません。試験管とコミュニケーションがうまく
いかない場合もあります。途中で返答に詰まって、悲観して途中で退室した
受験者もいたそうです。
 
2. 私の受験体験
 
1997年9月26日の午前8時半、アリゾナのスコッツデールの豪華なホテル
に到着しました。既に、正装し神経質そうな表情で、一目で受験者と
わかる人々が見えます。登録の時問になりますと受験者はホテルの部屋
に集められ試験のオリエンテーションが始まります。約30人位の受験者
と一人の係の方が一つの部屋に集まっておりますが、雰囲気はまるで
お通夜のようです。誰一人として笑顔は見えません。緊張仕切っている
ようです。私の脈拍も既に平静時の1.5倍に速く脈打っております。
一人一人名前が呼ばれ、受験通知と引き換えに、時間と場所が書かれた
カードを渡されます。オリエンテーションが終わると、同じ会場で第一問
の症例が与えられ、麻酔管理について15分間考えたのち、それぞれ指定
された試験の待つ部屋に散って行きます。その前の椅子に腰掛けて
待っていますと、ドアが開き中に入るよう促されます。二人の試験官が
待ち構えております。準備は良いか、と訪ねられ'0K'と返事すると、
早速、次から次へと質問攻めにあいます。スタ―トが肝心です。最初に
つまずくと後までうまく行かないでしょう。状況が突然変わります。
まるでジェットコースター(アメリカではローラーコースターと呼ぶ)
に乗っているがごとく感じられます。途中で空中に放り投げ出されるか
と思うような事態を感じる時もあります。まずかったかなと前の問題に
くよくよとしていると次の質問が聞き取れなくなってしまいます。
もう一度言って下さいませんかと丁寧にお願いし、軌道に乗せます。
35分はあっと言う間に過ぎさりました。ゆっくりくつろぐ間もなく、
次の部屋に移り、10分間次の症例に取り掛かります。自分の得意な分野
ならいいですが、苦手な分野だとこれはだめだと思ってしまうでしょう。
とにかく思い付く事全てを与えられた一枚の紙に書くことです。
中に入ると、最初とは異なった二人の試験管が待ち構えています。
それぞれ個性があり、受験者とうまくかみ合わない場合もある。
運、不運は問題の種類だけではなく、どういった試験官に当たるかにも
よります。第一例でエネルギ―をかなり消耗してしまったせいか、頭の
回転が鈍くなり、ちょっとした事で戸惑ってしまう。終了したときには、
これはだめだ、という失望感で心が一杯になりました。この試験終了直後
が最も不安定で動揺している時でした。これはある程度予想していました
ので、試験を忘れるために観光に出掛けました。しかし、なかなか、先程
起きた出来事は脳裏から離れません。後悔の念に悩まされました。

という五万年前に隕石が衝突してできた巨大な穴がフラッグスタッフの
近くにありますが、それをじっくり眺めているうちに、ようやく心の平静
を取り戻すことができました。宇宙の長い歴史を考えれば、たった一回の
試験の結果に憂慮するなどとは、たわいもないことだ、と自分に諭すこと
ができました。しかし、旅行から帰ってきて、現実に戻ると、もし落ちた
場合のことを考えると、悩みはつきません。周囲の目も無視できません。
 
さて、試験から10日程経って試験の結果を知らせる手紙が届きました。
自信がありませんでしたので、次回の受験の申し込みはどうしたらよいか
という情報でも入っているのであろうと思い切って封を開けると、
'Congratulations!'
で始まる文書がありました。これで長かった戦いは終わった! これで晴れて、
アメリカ麻酔医専門医として登録されることになりました。留学を始めてから、
精神的にも経済的にもいろんな困難を味わい、ハードなトレーニングにも
何とか耐え、ストレスの多い受験生活に取り組んだ、これまでの苦労が一変
に報われたような喜びを感じました。
幸いにして筆記、口頭試問とも一度の受験で合格できましたが、今考えますと、
大事なのは周到な準備と、例え失敗しても悲観せず、翌年受験し直す勇気を
持っておくことでしょう。そうでないと、試験の結果で、自分の人生を台なし
にしてしまうことになりかねません。一つのゲームに過ぎないと割り切った方
がよいでしょう。しかし、とはいえ心理的な負担は大きいですから、準備は
早ければ早いほど望ましいです。特に、コミュニケーションに不安の方は
PGY―1から準備を考えた方が良いでしょう。再度強調しますが、口頭試問は
麻酔の知識をテストしているだけではありません。実際の症例をもとに、
患者をいかに評価し、麻酔計画を立てるか。思いがけない合併症にどう対処
できるか。そして、論理的な考えをまとめていかに要領よく試験管に自分の
意見を伝えられるかというコンサルタントとしての麻酔科医に必要な能力を
試しているのです。
ちなみに私は、当初英語がうまくできませんでしたので、インターンの時
から口頭試間の事を憂い、発音、バプリックスピ―キングの上達のための
レッスンを受けておりました。今では、スピーチを頼まれてもある程度の
自信がついて来ました。最近、参加者30人、しかもその90%が米国人の中で
競い合った即興スピ―チコンテストで、べスト3の中に選ばれました。
試験官は、限られた時間で多くの質問をしようとナチュラルスピードより
速いスビードで質問してきますので、耳の訓練も必要です。この早いスピード
についていくトレーニングについては、キャプション付きのテレビで、
医療番組(Chicago Hope, ER)やコメディーなど
の番組を多く見るよう心がけておりました。更に詳しい試験対策を知りたい方
はご連絡下さい。

これから受験される先生方の成功をお祈りします。

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