<ミニ特集>-麻酔医の海外医療脇力- 

Yumiko Ishizawa,M.D.



1. Q&A-麻酔医の海外医療脇力-
2. 途上国における麻酔教育のためのNG0
3. カンボジアでの口唇口蓋裂派遣手術チ―ムにおける麻酔ついて

1. Q&A-麻酔医の海外医療脇力-

このネットワ―クには、アメリカに関心のある先生方が
多数いらっしやるわけですが、そういう方なら、他の国々
にも関心を持っていらっしゃるのではと期待して、ミニミニ
海外協力特集です。まずは思いつくままのQ&Aですが、
興味のある先生方、ご意見ご感想、そして質問などいただける
とうれしいです。

Q:途上国ではどんな麻酔をやっているのでしょうか?

A:たとえば、カンボジアでは4、5年前までエーテルで麻酔をして
いるところがたくさんあったようです。現在のベトナム、ホ―チミン市
では、吸入麻酔薬はハロセンのみ、筋弛緩薬はサクシニ―ルコリン、
時々SpinalやEpiduralを行う、という様子です。

Q:麻酔器やモニ夕ーぼ使えるのでしょうか?

A:酸素や圧縮空気のボンベを用意する必要があります。モニタ―類も、
ボルト等を調整して持っていけば使えますが、頻回の停電を心得て
おかなければいけません。1O年以上前ですが、Anaesthesiaという雑誌に、
途上国に贈られた麻酔器が使われずに、まるでお墓のようにいくつも
ならんでいる写真が載っていました。昨年私が訪ねたホ―チミン市最大
の病院では、幼児のC1,2(脊椎)の手術を、腹臥位、ハロセンのみ、モニ夕ー
は血圧のカフのみで心電図なし、で行っていました。

Q:麻酔専円医に海外協力の道はあるのでしょうか?

A:あります。途上国というと、どうしてもプライマリーヘルスケアが
優先されますが、現場ではそれと同時に、麻酔、救急、ICUの導入など、
我々の活躍できる分野がどんどん必要になっています。特に、途上国
の都市部においては急務といえます。そして、私にとっては新鮮な感動
でしたが、現場のリーダー達はその必要性を十分に理解しています。

Q:海外協力の具体的な方法は?

A:・NGOに参加  (★次ページ以降の情報を参照してください。)
          手術チームを派遣しているNGO
          教育スタッフを派遣しているNGO; HVO, ASA等
          教科書や医療機器を贈っているNGO
          緊急事態に医師を派遣するNGO; Medecins SanS Frontieres等
          NGOをつくる!
   ・政府レベルの機関で働く;日本では、国際医療協力センタ―(前国立医療
     セン夕ー)の医師達が、JICAのプロジエクトで働いています。
     アメリカでは、USAIDがあります。
   ・国際機関で働く;WHO,UN,UNHCR等
   ・途上国の医師に日本やアメリカで研修の機会をつくる
   ・個人的に訪ねる

Q:海外協力のために特別な勉強が必要でしようかZ

A:必要ということはありません。知識やstrategiesを効率よく学ぶため、
また興味があるかたは、MasterDegreeのコ―スで勉強するのも、よい方法
ではないかと思います。また、将来的に国際機関や政府で働きたい方は、
degreeがあったほうが有利です。
 
 Master of Health Sciences(International Hea1th, Population
 Dynamics, etc.)
 Master of Public Health

Q:海外協力をするにあたって重要なことは?

  Be F1exible!
  アメリカで活躍されている先生方には言うまでもありませんね。

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2. 途上国における麻酔教育のためのNG0

Health Volunteers Overseas (HVO)
   P.O.Box 65157, Washinghon,D.C. 2OO35-5157
   Phone: 2O2-296-O928 /Fax: 2O2-296-8O18, Email: hvo@aol.com
"HVO is a private non-profit organization dedicated to improving
the quality and increasing the availability of health care in
developing countries through training and education."

HVOの特徴としては、以下のことがあげられると思います。
現地に専門医がでかけ、現地の専門医およびナースの教育を行う。
経済的にも全くのvolunteeringで、旅行費、滞在費等ほとんど自己負担である。
途上国に必要な医療の分野を幅広くカバーしている。8つのdivisionsは、麻酔、
歯科、一般外科、内科、口腔顔面外科、整形外科、小児科、理学療法である。
ほば世界中にプログラムを展開している。
ニュ―スレ夕ーでご紹介したカンボジアでの経験から、是非"教育"を、と考えていた
私は、昨年このHVOのベトナムのプログラム(下記参照)に参加しました。
HVOは米国人医師がほとんどのグル―プですが、今回の私の参加は非常に歓迎
され、ベトナムと決める前には、アフリカへ、インドへと、お誘いがありました。
ベトナムでの経験は、またあらためてこのニュ―スレ夕ーでご報告したいと思います。
以下に、HVO,Anesthesia Overseasが現在行っている教育プログラムを
載せさせていただきました。レジデンシ―プログラムの一環としての参加も
可能だそうで、その場合には費用のサポ―トが受けられるかもしれない
と聞いています。興味のある方は、是非お問い合わせください。
 

Other Links:

WFSA
http://www.uwcm.ac.uk/uwcm/aa/wfsa/
 
WFSA On-line
http://users.ox.ac.uk/~ndainfo/wfsa/index.htm

IMVA international medical volunteers association
http://www.imva.org/

HVO USA
http://www.concentric.net/~Hvousa/

Used Equipments
http://www.samaritan.org/usedEqpm.htm

AANA Volunteers
http://www.aana.com/volunteer/

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3.カンボジアでの口唇口蓋裂派遣手術チ―ムにおける麻酔ついて
Strategies of General Anesthesia for Cleft Surgery Team
Dispatch to Cambodia.

Yumiko Ishizawa,M.D., M.P.H.

Introduction

  私は、オペラシオンユニという日本のNGOに麻酔医として参加し、
カンボジアにおいて口唇口蓋裂手術の麻酔および麻酔の教育を行うという
貴重な経験をしました。御存知のように、カンボジア国は国連カンボジア
暫定行政機構(UNTAC)のもとに急激な社会経済的な変化を経験しました。
それに伴って、地元住民の健康意識や疾病構造も変化し、二次、三次医療
としての外科的治療がプライマリ―ヘルスケアとともにその必要性を増して
いると考えられます。しかしながら、東アフリカ諸国でも報告されている
ように、麻酔を専門とする医療スタッフの絶対的不足、そして不十分な臨床
麻酔の技術は、カンボジア国における安全で適切な医療の提供にとって大きな
障壁となっていると考えられます。

  今回は、我々のプロジェクトにおける初期の成果について皆様にご紹介
したいと思います。特に、第4回めまでの派遣においてどのような全身麻酔
が行われたかをまとめて、その提供や技術移転についての問題点を考えて
みたいと思います。

「治療」と「医療技術の移転」
 
  1989年から1990年にかけてカンボジア国における口唇口蓋裂手術チ―ム
派遣の必要性の評価および実行可能性についての検討を行いました。そして、
  「24時間テレビ」チャリティー委員会(皆様も御存知だと思いますが、
あの24時間テレビの寄付金をもとに活動しているNGOです)の協力で建設、
運営されているカンダ―ルスタン郡立病院への派遣を開始ししました。
このブロジェクトの目的は、口唇口蓋裂患者の「治療」と現地医療スタッフ
に対する「医療技術の移転」でした。
  全身麻酔の準備として、麻酔器、心電図・パルスオキシメーター、および
筋弛緩薬等は日本から送り、酸素および圧縮空気は現地で調達しました。
笑気および吸入麻酔薬は現地では入手不可能でした。(UNTACの派遣で来ていた
ドイツ人麻酔医は、お隣のタイから笑気を買ったそうですが、Wet(?)で使えな
いと言っていました。)カンダールスタン郡立病院に勤務しているカンボジア
人外科系医師は2名で、私達日本人麻酔科医は現地看護スタッフとともに麻酔
を担当しました。
    1991年6月から1993年1月までに4回の短期(3,6週)口唇口蓋裂手術チーム
の派遣で計130名の手術を行いました。手術患者の年齢内訳は、0‐5歳が54名
(42%)、6,18歳が51名(39%)、18歳以上が25名(19%)でした。全身麻酔の方法と
しては、完全静脈内麻酔を70名(54%)に、静脈内麻酔と低濃度吸入麻酔薬
(0.3-1.O%ハロセン)の併用を60名(46%)に対して行いました。吸入麻酔薬と
気化器は、プロジエクトの途中で日本から持参しました。幸いなことに、
上気道閉塞や無呼吸などの術後合併症は、手術室、回復室、および病棟いずれ
においても1例も認められませんでした。
  現地看護スタッフ(セカンダリ―ナース)に対する麻酔の技術移転としては、
麻酔前診察の補助、全身麻酔の準備、麻酔中・麻酔後の患者バイタルサインの
観察と記録、静脈確保、気管内挿管等の手技について行いました。
 
途上国における麻酔

  途上国における全身麻酔については、モニタ―機器の不足による気道トラブル
を最小限にするため、吸入麻酔薬による自発呼吸を残した管理を推奨する麻酔医
もいます。ご紹介したプロジェクトで私達が静脈麻酔中心の麻酔管理を行った
理由としては、現地で吸入麻酔薬が入手困難なこと、また高価なこと、手術室
に余剰ガス排気システムが無いために手術室内および周辺環境の汚染が生じる
ことからです。さらに、短期派遣の活動であるために現地スタッフにとっては
研修が断続的になりますが、同様の麻酔方法を繰り返し行うことでより麻酔の
研修効果が上げられるようにと考えました。このプロジェクトで現在までに1例
も重篤な合併症の発生がありませんので、周術期の患者観察を十分に行えば
静脈麻酔は途上国の現状に即した良い麻酔方法のひとつといえるのではないで
しょうか。
  麻酔技術の移転については、カンボジア国の医師数の絶対的な不足、加えて、
麻酔を専門的に研修した医師が非常に少ないことなどによって、このプロジェ
クトを始めた時点では完全な技術移転は不可能と考えられました。私が最初に
カンボジアを訪れた1992年には麻酔専門医として働いている医師はゼロでし
た。ほとんどの病院で経験の乏しいナースが医師のスーパ―バイズなしに麻酔
を行っていましたし、エーテルを使用している施設もかなりあったようです。
現在では、フランスのNGOとカンボジア政府の協力によって、麻酔専門医や
麻酔専門ナースの教育プログラムが展開されています。
  途上国と言いますと、マラリア、結核、下痢、etc.がすぐに頭に浮かんで
しまいますが、そして、それらもいまだに重要な問題なのですが、都市部に
おいては急速な建設ラッシュや交通事故の急増などに伴って外科的治療および
全身管理の必要性は明らかに増加しています。この現象は、我々「先進」と
言われる国々の開発協力の産物とも言えます。途上国を訪ねると現地医師達が
これらの問題に対応していきたいと強く願っていることがわかります。
 我々麻酔医の活躍の場は途上国にもたくさんあるのではないでしょうか。
 
P.S.ご紹介した口唇口蓋裂手術のためのNGOは、現在もプノンペン市内の
病院にて活動を行っています。私達の行った麻酔のもう少し詳しいレポートは
以下の論文をご参照ください。

Ishizawa Y, et al. Tropical Doctor 27:153-155, 1997

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