アメリカ臨床研修入門


Clinical Update No. 1
             Kenichi Tanaka, M.D.


 
1.Lung Volume Reductionについて

ピッツバーグ大学で行われている症例の麻酔管理について、
簡単に紹介いたします。

a.モニタリング

モニタリングは通常のモニターに加え、動脈圧ラインが全例
に挿入されます。 中心静脈、スワンガンツラインは、重症度、
合併心疾患など、症例により適宜使 用します。パルスオキシメ
ターは使用しますが、症例の病態により良いシグナルが得られ
ないことがあり、指先以外にプローブを装着する必要ある場合
があります(耳朶、鼻先または口唇)。

b.麻酔の選択と術後管理

全例に対して、全身麻酔を施行します。導入は、Thiopental or
Propofol+Sux or Rocuronium +Fentanyl で行います。循環が
不安定な症例には、Etomidateか 麻薬による導入をします。
ダブルルーメンチューブを挿管します。笑気は使用しませんが、
空気は症例により使用可能です。輸液は色々と論議がありますが、
外科医の好みもあり、術中は最小限にとどめており、血圧の維持
はphenylephrine dripで行う場合もあります。

片肺換気中は、ヴェンチレータの設定を他の肺外科症例と同様、
Tidal Volume 10ml/kg で行い、呼吸回数はEtCO2、ABGに基いて
調節します。PEEP、CPAPの使用 は適宜します。 Dependent lung
から、Nonventilated lungへのエアリークがあると、手術部位の
Bronchopulmonary fistulaからリークするため、換気が不十分に
なる(Inspired Tidal> Expired tidal volume)になる場合があり
ます。また、COPD患者は呼気時 間が非常に延長していることが多く、
呼気が不十分であると、エアトラッピング が起こります(auto PEEP
は片肺換気中の多くの患者におこるとされる ref.3)。 胸部硬膜外
カテーテルは、禁忌または患者の拒否がない場合には必ず挿入します。
私の限られた経験から申しますと、この手術の周術期の管理の鍵は、
術後の疼痛 管理にあるといってよいと思います。 胸腔鏡の進歩に
より重症のCOPD患者(e.g. FEV1<800mL)でも、全身麻酔下の肺部分
切除手術を受けられるようになりました。これは術後疼痛のレベル
が大きく減少 したことと関連しています。 Lung Volume Reduction
後の患者は、術後一時的に肺機能が低下することが多いため、そこ
に手術創、チェストチューブの痛みが加わると、Oxygenationの悪化、
Pulmonary Toiletも不能になり、ひいては感染にいたり、長期の呼吸
器管理、ICU管理をしいられることとなります。術中の低体温もしば
しば見られますので、感染に対しては注意が必要でしょう。

硬膜外麻酔が施行不可の場合、外科医が肋間神経ブロックを行う
(胸腔鏡下また は術野からブロックするか、経皮的に行う)か、
PCAを使うことになります。 チェストチューブから、局所麻酔を胸腔
に注入するのも一時的には有効でしょう。 創部のみの痛みならば、
EMLA creamを用いることができます。 これらは順次、経口鎮痛薬に
切り替えてゆきます。

雀の涙くらいのTidal Volumeしかない患者が手術創の痛みから呼吸
不全と感染の 悪循環に陥っていくの悲しいものですが、胸部硬膜外
麻酔と低濃度の吸入麻酔と 麻薬をうまく使うとこれらの患者でも
手術室での抜管が可能となり、術後もよいとなれば、麻酔管理が患者
の予後に大きく貢献できることになります。

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