JSA Meeting 1998
日本麻酔学会見聞記

石沢 由美子先生 



 
先日鹿児島で日本麻酔学会(4/16-18)が行われました。
今回のテーマは“麻酔の専門性と周辺領域との調和”ということ
でしたが、それなりによく考えられたプログラムであった、
という印象です。基調講演として、武下先生(前山口大学教授)
が麻酔におけるパラダイムの変換、特に、1980年代からの
AnesthesiologyからPerioperative medicineへの名称も含めた
考えの転換が日米両国で起こっていることを話されました。
実はこのような考え方は、1950年代からあるとのことです。
1960年ごろのアメリカでのミーテイングでこの名称の変換が
話題になったとき、ある高名な麻酔科医が立ち上がり、
“自分にはAnesthesiologyという言葉がなんと心地よくひびく
ことか、”と言うと会場はシーンとしてしまったというエピソード
には私も同感してしまうなあと思いながら聞きました。

シンポジウムのひとつに麻酔の教育に関するものがありました
(麻酔の専門性を求めて-麻酔学における教育)。
アメリカの現状をカンザスの荒川先生がお話になりました。
Managed care systemのこと、将来は麻酔医がGate keeper ( Generalist
ととも言えますが)のような役割をはたすのがよいのではないかという
意見もお話になりました。荒川先生は最後に日本の麻酔医は“麻酔は
Medical practice”であるという信念でCRNAのようなものなくこれまで
やってきたことに頭が下がる思いであるとおっしゃって、本当に頭を
お下げになっていました。

このシンポジウムは他に、韓国ソウル大学のキム先生が韓国における
麻酔の卒後教育について話し、また、後半は浜松の植村研一先生
(脳外科)が、効果的な論文の書き方や学会発表のしかた(効果的学術
発表のコツ)について、イギリスDr.David G LambertがBr J Anaesthの
Editorとしての立場から“Writing for the British J Anaesthesia”という講演を
されました。
教育をいう点からは、前半の麻酔専門医の教育をすべて時間を使って
discussionしたほうがよかったとおもいますが、私個人としては、
植村先生のお話がとてもわかりやすく楽しめました。この植村先生です
が、このシンポジウムに同時通訳をしてくれる先生をお連れになり、
ヴォランテイアでキム先生とDr.Lambertに通訳をしてくれました。
脳外科学会では、ずいぶん前から脳外科医が同時通訳のグループを作り、
学会のときに招待した外国の先生方の話を通訳するだけでなく、日本人
の講演も通訳し、招いた人達を十二分に学会に参加してもらうという努力
をしているそうです。この通訳団は同時通訳の練習の合宿もしているそう
です。私も以前からこの話を聞いていてうらやましく、私達も何か
努力をしないとと思っていました。麻酔学会も毎年何人かの高名な先生
方を海外から招くようですが、やはり講演を聞くだけではもったいという
気がします。
 
 
講演は、例年のように招待講演、教育講演があり、また新しい試みと
して、概念の生理、と紹介講演という30分の短いレクチャーがありました。
概念の生理はステロイドカバー(稲田英一先生)やMAC(池田和之先生)
を聞きましたが、ポイントを手短にまとめてくださり“概念の生理”に
なりました。
シンポジウムは上記のほかにもいくつかありましたが、ここでは省略いた
します。
外国からの招待講演者は、私が知らないだけかもしれませんが、以前の
ように高名で、でもretireに近い人という印象はありませんでした。
が、私が聞いた2、3人の講演をはそれほど印象深いものではありません
でした。Dr.Yakshのようにすばらしいspeakerは何回呼んでもよいので
しょうか?誰に来てもらうか難しいところです。
 
演題は発表は、すべてポスター、その中の一部がポスタ-デイスカッション
となっていました。ポスタ-デイスカッションは比較的狭い部屋でOHPを使用
して発表しましたが、合計15分の発表討論で、私自身が発表した印象では、
まあ十分なデイスカッションができていたように思いました。
 
最後に、このようないろいろなプログラムをすべて聞けたらすばらしかった
のにそれは到底むりでした。かなりのものが同時進行、そして、会場が5つ、
シャトルに乗って移動しなければならないところもあり、いつものことながら
改善すべき点だと思いました。せめて、特別講演や教育講演は他のプログラム
と重ならないようにしてほしかったと思います。また、一地方都市で学会を
開催し続けていくことは、学会自体の医学的、科学的発展を考えると問題が
あるように思えました。
 
以上、簡単に個人的に麻酔学会を振り返ってみましたが、またASAなどと
比較して考えていきたいと思っています。
 


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