今回、Advanced Trauma Life Support Course for
Physicians、略してATLSを受講する機会がありました
ので報告させて頂きます.
1.ATLSが始まった発端
l976年2月,ある整形外科医が自家用飛行機を
採縦している最中にネブラスカ郊外の片田舎
の畑に墜落しまました. 妻は即死し,彼と3人の
子供が重傷を負いました. 彼は辛うじて助かりま
したが,子供は彼の見ている前で適切処な処置が
施されなかったために次々と亡くなっていきました。
彼は救急医療システムのどこかがおかしいと疑問に
思い, 地域の医師会にシステムを変える必要性を
強く訴えました.
ネブラスカの外科医、医師たちも外傷患者の処置の
トレーニングの必要性を感じ、講習および実習から
なる外傷患者の治療能力向上のための講習会を確立
しました。ATLSを受けた医師とそうでない医師とで、
外傷患者の治療成績が明らかに異なることがわかり、
この講習の価値は証明されました。
2.世界に広がるATLS
現在、世界で次のl5カ国がATLSを積極的に行って
います。それらはアメリカおよびその領土、カナダ、
トリニダード、トバゴ、メキシコ、チリ、ブラジル、
ボリビア、アルゼンチン、英国、ニュ―ジーランド、
イスラエル、アイルランド、南アフリカ、サウジ-
アラビア、シンガポ―ルです。
3.ATLSの概要
私の受けた会場では,内科医,家庭医,外科医、および
麻酔科医など約20人が参加しておりました.
経験の浅い研修医もいれば、15年以上のベテラン
家庭医や整形外科医、麻酔科医などもおりました。
講師は資格を有する(ATLS Courseを教えるためには、
規定の研修を受け、講師として認められる必要がある)
各科の専門医(家庭医,救急医,外傷外科医,麻酔科医など)
でした.
第l日目の午前8時から初期評価と治療、気道確保、
ショック、胸部i外傷、腹部外傷の講習、昼から夕方5時
までは、気道確保、血管確保(骨髄内穿刺を含む)、
レントゲン読影の実習と生きたブタを使った外科的処置
の実習がありました。受講者2-3人に一頭の割で生きた
ブタ使うのには驚きました。
ケタミン静注後、血管確保、気管内挿管し、麻酔器につな
ぎ、笑気・酸素・ハロセンを使用した麻酔管理をします。
心電図のモニター下で、インストラクター(外傷外科医)
の指導の下に鼠徑静脈カットダウン、試験的腹腔内穿刺
(Diagnostic Peritoneal Lavage=DPL)、胸腔ドレナージ
挿入、心膜穿刺、気管切開などの外科的処置を行いました。
第二日目は、午前中に、頭部外傷、脊椎・脊髄損傷、熱傷・
凍傷、小児外傷、妊婦外傷、患者輸送の講習(適切な患者
輸送が行われなかったために、救命できる患者を失血死させ
医療裁判になったフロリダ州の例が紹介されました)、
輸送時の患者固定、レントゲン読影、トリアージ訓練(=Triage
一度に多数の外傷患者が発生した場合の治療優先順位の決定)
の実習が行われました。
午後からは、筆記試験および講師と一対一で実技試験があり
ました。私は、無事合格し、4年間有効の資格証明書をいただ
きました。
4.終わりに
たった二日間の講習でしたが、大変実りあるものでした。
救急患者をあつかうすべての医師がこの講習を受け、勉強
すれば、確実に救命治療の成績は向上すると、確信できま
した。
ATLS参加国の中に、日本が含まれていないのは非常に残念
です。少なくとも、約400ページある講習テキストを翻訳して
救急医療に携わる医師に読んでいただけたらと、考えており
ます。