"Americaでの出産"       

分娩に関する補足

a. 分娩・出産をする部屋は3種類あります。

(1)Birthing Suite

以前はラマーズクラスを受け、自然出産をする女性が分娩する部屋であったが、

現在は問題のない妊娠経過、健康な母 と胎児であれば、制限がない。

硬膜外麻酔、脊椎麻酔を受けることもできるようになった。 この個室の利点は、

分娩・出産・回復を通してここに滞在できるため、Labor Suiteでの分娩のような

たびたびの部屋の移動がなく、比較的静かな環境ですごせることである。 

この部屋を希望する方は、入院時に係員にその旨をのべて下さい。

(2)Labor Suite

(1)の部屋をリクエストしない場合は、この個室に入ります。

妊娠に問題のある場合(高血圧、糖尿、多胎妊娠、子癇(eclampsia)、

子癇前症(preeclampsia)など)は、この部屋に指定されます。

禁忌がなければ、硬膜外麻酔、脊椎麻酔を受けられるのはもちろんです。

出産の直前になると、(3)のDelivery Suiteに移動します。

移動はベッドごと行われます。

(3)Delivery Suite  

(2)Labor Suiteから移動してくると、この部屋に担当の産科医、 看護婦が集まり、

出産を行います。 お父さんは普通、へその緒を切る仕事を与えられます。

出産が終了すると、ベッドごと回復室へ移動します。

この部屋は基本的には手術室としても機能するようになっています。

出産のためのベッドや全身麻酔の装置などが設備されています。

緊急の帝王切開などは、ここで脊椎麻酔や硬膜外麻酔を行います。

既に硬膜外麻酔カテーテルの挿入されている場合は、麻酔薬を追加 すること

により、麻酔レベルを広げて、帝王切開にも対応すること ができます。

非常に切迫した母子の状態でない限り、全身麻酔を受けることは稀です。

b. 回復室への移動

目出度く出産の大役を終えたお母さんは、分娩室と通路を経てつながった 回復室へと移動します。

お父さん、赤ちゃんも一緒です。 血圧、脈拍、呼吸数などを看護婦がチェックして、一休みとなります。

産後は体の振るえがよくありますが、ゆっくりした大きな呼吸をして落ち着くようにして、暖かいブランケット

をもらってかけるとよいです。振るえがひどい場合は、少量の麻薬(Demerol=Meperidine)を静脈注射(iv lineから入れる)

することもあります。 二時間ほどすると、新生児室のある二階の病室へ移ることになります。

脊椎麻酔や硬膜外麻酔を受けた方は、この麻酔レベルの切れ具合(足を動かせるか)も病棟への転床の基準になります。

硬膜外カテーテルはここで抜いてゆきます。この後の痛み止めは経口薬になります。

5. 無痛分娩に関する麻酔

日本では麻酔医師の人手不足のため、普及していない無痛分娩ですが、

米国ではほとんどの妊婦が無痛分娩の麻酔を受けています。東洋人は辛抱強いため、

かなりの痛みにならないと鎮痛薬を希望しない、ということは米国医師の間でも知ら

れています。 しかし、母国語を話せない国で、親戚・両親の助けも思うに得られない

ところで 出産することを考えると、無痛分娩で痛みを押さえることは、不安の解消の

手助けとなるでしょう。退院までの時間が短いこともあり、体力、精神力の温存のため

には無痛分娩がすすめられるでしょう。

マギーでは、麻酔専門医が24時間当直しており、希望すればいつでも麻酔を受けること

ができます。時間のない人はこの項のaとeだけ読んで下さい。

a.分娩・出産の段階

分娩は3つの段階にわけられます。 第一段階は規則的な子宮収縮(contraction)が始まる

ところから、子宮口が全開大 (complete=10 cm)までをいいます。 第二段階は、子宮全開大

から赤子の誕生までをいい、第三段階は、その後の胎盤 娩出までをいいます。 硬膜外

麻酔カテーテルを入れるのは、第一段階が安定した頃です。これは通常、 初回妊娠では

子宮口が5-8cm、複数回妊娠では3-6cmとなった時です。

b.硬膜外麻酔とは?

硬膜外腔(epidural space)というのは、脊髄の周りのくも膜下腔(subarachnoid space)を取り囲む

細い管腔(space)です。くも膜下腔とは膜で仕切られています。 硬膜外腔には、運動神経と

感覚神経の束が走っています。 硬膜外麻酔はこの管腔に麻酔薬(麻薬、局所麻酔薬)を注入する

ことで、腹部、会陰部、下肢を支配する感覚神経をブロックすることにより効果を出します。

この管腔に細いカテーテルを挿入することで、頻回に麻酔薬を投与することが できます。

カテーテルを挿入する時に、下肢に鋭い電撃痛がはしることがあるのは、神経根がカテーテル

によって一時的に刺激されるからです。

妊婦の場合、分娩の後期には赤子を押し出さねばなりませんので、濃度の薄い 局所麻酔薬と少量

の麻薬を使うことにより、感覚神経だけをブロックし、運動神経を極力温存するようにします。

しかし、局所麻酔薬を使うとどうしても、子宮の子癇が弱くなり、分娩の第二段階が延長すること

があります。低血圧を来す場合もありますが、点滴、昇圧剤薬で対処します。 他方、麻薬は痛みだけ

を取るのに効果的ですが、たくさん使うと吐き気やかゆみ、尿が出にくくなる、呼吸の抑制、胎児の

抑制などが起こり得ます。このため、少量の局所麻酔薬と麻薬の組み合わせにより、両者の利点を使い、

副作用を押さえる濃度が選択されます。

子宮口がまだ小さく、第二段階までに時間がかかると見られる場合(特に初回妊娠) には、持続硬膜外麻酔

を行います。これは小型のポンプを使い、上記の局所麻酔薬と麻薬の組み合わせを持続的に注入するもの

です。それ以外の場合には、数時間置きに、麻酔薬を注入することになります。 一時間おきに、麻酔科医

または麻酔看護婦が回診して、血圧、脈拍、麻酔レベル、胎児脈拍をチェックします。麻酔の加減はこの

時におこなわれます。それ以外の時でも、異常を感じたり、痛みが取れない場合は、麻酔科を呼ぶことが

できます。

注意してほしいことは、硬膜外麻酔薬は下部の神経(会陰・肛門部)には浸透しにくいため、、分娩第二

段階の疼痛効果は低いことです。したがって、胎児が子宮内を降下して来るにしたがい、妊婦は肛門部の

圧力・痛みを感じたりします。娩出時に疼痛があるのも普通です。ラマーズクラスで教えている呼吸法は、

この場合に大変役立ちます。 会陰切開の痛みには、産科医師が局所麻酔を傷のまわりに注射するか、局所

麻酔の軟膏(EMLA cream)で対処できます。

c.硬膜外麻酔の利点・欠点

硬膜外麻酔の使用には賛否両論の論議がありますが、米国では、治療できる痛みを放っておくことは

非人道的であるという考え方が主流であるため、妊婦が希望する限り、禁忌がなければ施行するのが普通です。

母体のストレス反応(ストレスホルモン=カテコラミンの分泌)は子宮の収縮を不規則にすることがあります。

痛みを押さえることで動きを正常化します。

分娩の初期から痛みで力んでいると、疲労のため第二段階の後半に胎児を押す力でないことがあります。

体力・精神力の温存に有効です。

さらに、緊急に帝王切開、鉗子分娩が必要になった場合に、麻酔のカテーテルから局所麻酔を大量追加して、

麻酔レベルを広げて素早く手術に対応できます。 全身麻酔でないので、生まれてくる子をお母さんも見ること

ができます。 

欠点は、分娩時間が多少延長すること(ただし分娩時間の長短は、健康な胎児には影響がありません)、

鉗子・吸引分娩の確率が多少増えること、血圧の低下があり得ること(点滴、昇圧剤で対処します)、

吐き気・かゆみ、頭痛・腰痛がありうることなどです。

d.脊椎麻酔とは?

ラマーズクラスなどを受講すると、"Walking Epidural"(歩ける硬膜外麻酔) という言葉を聞きますが、

正確に言うとこれは脊椎麻酔のことです。 脊椎麻酔は、脊髄の周りのくも膜下腔(subarachnoid space)に

直接麻酔薬を注入するもので、硬膜外麻酔に用いるものより細い針を使い、硬膜外腔よりさらに奥に

進めることにより行います。くも膜下腔は脊髄を直接囲んでいるとは言え、 これらの麻酔を行う腰椎

下部には脊髄はありません(もっと上の方で尻尾のように細くなる)ので、脊髄自体を損傷することは

ありません。麻酔薬はここで、脊髄から出る神経の束に浸透して、感覚をブロックします。麻薬だけ

を注入すれば、感覚神経だけがブロックされ、"Walking Epidural"となりますが、大抵の妊婦はこの時点

で歩くことを望まないので、この麻酔を行うことはまれです。

脊椎麻酔の適応は、帝王切開のための麻酔が主です。また、子癇が強く、子宮口のかなり開大している

段階(6-8cm)で、分娩が長びくこと・帝王切開になることが予想される場合(胎児の体位が殿位(breech=逆子)、

横位(transverse)、または双子など)に、脊椎麻酔と硬膜外麻酔を同時に行うこともあります。これは両者の

利点をとり、効きが早く、持続時間を調節できることが特徴です。

脊椎麻酔の利点は、効き目が早いことと、分娩第二段階にも疼痛効果があると言うことです。欠点は、

麻酔施行後に頭痛が起きうること、麻酔薬の頻回投与はできないので麻酔レベル・持続のコントロールが

しにくいことでしょう(脊椎麻酔用のカテーテルは現在使用されておらず、麻酔薬は一回だけの注入となり

ます)。 最近の器具の進歩により、麻酔に使う針はかなり細いため、頭痛の発生も稀になりました。 頭痛が

生じた場合は、安静と十分な飲水、カフェイン摂取、鎮痛剤で対応します。

e.実際の硬膜外麻酔の様子

麻酔を受ける前には、幾つかの質問(用紙に記入)をされますが、これは以下のようなものです。
 

ALLERGIES
 

AGE SEX (CIRCLE) HEIGHT  WEIGHT

MEDICATIONS
 

CHECK "YES" OR "NO" TO ALL ITEMS

ACCEPT BLOOD TRANSFUSION FOR
LIFE SAVING PURPOSE

HAVE YOU EVER HAD A BLOOD
TRANSFUSION?

HIGH BLOOD PRESSURE / PRE-ECLAMPSIA

EVER HAD EKG OR CHEST X-RAY

CHEST PAIN, PRESSURE, OR
TIGHTNESS

PALPITATIONS

CONGESTIVE HEART FAILURE
HEART ATTACK

HEART MURMUR

RHEUMATIC FEVER

MITRAL VALVE PROLAPSE

ASTHMA

BRONCHITIS

EMPHYSEMA

TUBERCULOSIS (TB)

PNEUMONIA WITHIN PAST 6 MONTHS

PAST SURGERY DATE

COUGH OR HEAD COLD WITHIN THE
PAST 2 MONTHS

HIATAL HERNIA

ULCERS/ HEARTBURN
YELLOW JAUNDICE/ HEPATITIS

KIDNEY FAILURE
JAW PAIN OR INJURY/ TMJ

LOOSE, CHIPPED, CAPPED TEETH,
OR DENTURES, BONDS, VENEERS

NECK OR BACK PAIN OR INJURY
ARTHRITIS

TINGLING, NUMBNESS, OR
WEAKNESS IN YOUR ARMS OR LEGS

MUSCLE OR NERVE DISORDERS

STROKE

SEIZURES OR EPILEPSY
FAINTING OR BLACKING OUT

CONTACT LENSES

GLAUCOMA

DIABETES MELLITUS

ANESTHESIA COMPLICATIONS, EXPLAIN
 

 THYROID DISORDERS

 ANEMIA

 BLEEDING GUMS, NOSE BLEEDS, OR
 EASY BRUISING, BLEEDING DISORDER

 SICKLE CELL TRAIT OR DISEASE

 STEROIDS, SUCH AS PREDNISONE, IN
 THE PAST YEAR

 ANTIDEPRESSANTS OR SEDATIVES IN
 THE PAST 6 MONTHS

 ARE YOU PREGNANT?

 HAVE YOU HAD COMPLICATIONS WITH
 PREVIOUS PREGNANCIES?

 SMOKE? PACKS PER DAY

 DRINK ALCOHOL REGULARLY

 USE STREET DRUGS OR COCAINE IN
 THE PAST 6 MONTHS?

 PERSONAL OR FAMILY RELATED
 COMPLICATION WITH ANESTHESIA

PRIMARY PHYSICIAN

PHONE#
 

1.いままでに麻酔・手術をうけたことがあるか (全身麻酔=general anesthesia・局所麻酔=regional anesthesia)?

Have you ever had anesthesia or surgery before? What type of anesthesia did you have?

2.薬物アレルギー・副作用を体験したことがあるか?

Do you have any allergies?

3.現在服用している薬剤があるか?

Do you take any medicine?

4.現在治療を受けている疾患があるか(高血圧、糖尿病、心疾患、肝臓疾患、 腎臓疾患、貧血など)?

Do you have any problem like high blood pressure, blood sugar problem, heart disease, liver problems, kidney problems, or anemia?

5.血が止まりにくいことがあるか(血友病、頻回の鼻血、すぐあざができる、アスピリンを飲んでいる)?

Do you have a blood clotting problem like hemophilia, frequent nose bleeding or easy bruising? Do you take aspirin?

6.感染症に罹っているか(肝炎など)?  

Do you have any infectious disease like hepatitis?

7.この妊娠は何人めの子供か?前回の妊娠に問題があったか?

Is this your __th child? Was there any problem in your previous pregnancies?

8.妊娠に問題があるか?  例:高血圧(high blood pressure)、糖尿病(diabetes)、多胎妊娠(twins or  triplets)、

子癇(eclampsia)、子癇前症(preeclampsia)、逆子(breech)など。  

Have you had any problem with your pregnancy?

9.硬膜外麻酔、脊椎麻酔について説明を受けたか?

Has anyone explained to you about epidural or spinal anesthesia? 

ここで麻酔の説明が行われます。 お父さんは麻酔施行中は部屋の外で待っているように言われます。

点滴ラインを確保してから、血圧計と指先の酸素モニターを装着します。 妊婦は、座位または側臥位となり、

背中を消毒されます。 麻酔施行中に、強い子癇が来たときは、麻酔科医に言って下さい。通常、少し休憩をし、

深い呼吸をして乗り切るようにいわれます(=Just breathe through it!)。 その後、皮膚・皮下に局所麻酔をしてから、

硬膜外麻酔カテーテルを通す針を 入れます。このときには、局所麻酔が効いているので、背中を押される感じが

するだけです。針が硬膜外腔に達すると、次に細いカテーテルを挿入します。 これは、持続的または間欠的に

麻酔薬を追加するためです。 挿入時に下肢に鋭い圧迫感が来ることがあります(electric shockとか、ズンと 言う

感じなどと形容されます)が、これは一時的なもので、すぐ消失するので心配ありません。 この後、カテーテル

が血管内や脊随腔に入っていないかを、少量の麻酔薬を使い チェックします。激しい鼓動(palpitation)がしたり、

耳鳴り(ringing)、上肢・下肢のしびれ・くすぐり(numbness, tingling)、舌に金属味(metalic taste)を 感じたりしないこと

を確かめます。 最後に適量の麻酔薬をカテーテルより注入し、5分後に麻酔のレベルを確認します。このときには、

腹部はかなり楽になっているはずです。子宮の収縮は多少弱くなることが普通です。

f. Good Luck!
申し上げておきますが、このアップデイトにおいて、麻酔を押し売りする意志は全くありません。麻酔を受けるかどうかは、夫婦で話し合い、産科の先生の意見もふまえ
て判断してください。

それでは、新しいお父さんとお母さんがすばらしい出産を体験し、 幸せな家庭を築かれることを祈ります。


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